トンネルを抜けると、そこは梅ヶ島温泉郷だった

冬季のドライブで日帰り温泉となると、いつも伊豆になってしまう。北関東は残雪が怖いし、北信越なんてもっての他。運転技術に自信のないヘッポコGensamの行き先は、ガクンと選択肢が減ってしまうのだ。

おまけに人混みも避けたい、下手だけどドライブ感も楽しみたい。さらに侘び寂び、趣のある温泉がいい〜と、ワガママ言い放題。そんな理想の温泉郷…ついに見つけました。

仙人の隠れ湯殿、梅ヶ島温泉とは

今回目指す梅ヶ島温泉郷は、なんと古墳時代!より知られる日本最古(諸説あり)の温泉だ。霧深い山奥で木こりが発見したと言う、まさに深山幽谷の神秘めいた温泉なのである。

最寄りインターから1時間以上、川に沿ってクネクネと進むその道は今も山と共に暮らす人々がいる事を知る。「ここが最後のコンビニです。」目的地の30kmも手前に記され看板は、秘境の入り口に入ったことを教えてくれた。

人家もめっきり見なくなり、本当にこの道であっているのだろうか?とちょっぴり不安になることもあるだろう。しかし心配無用。梅ヶ島温泉は、インターからほぼ一本道。スリリングな気分はバッチリ味わい、それでいて安心感もしっかり確保。峠道も河川に沿った緩やかなカーブばかりで、へたっぴドライバーでも過度な緊張に襲われることは無いのである。

トンネルを抜けると、そこは梅ヶ島温泉だった

本当にこの道であっているのだろうか…と不、安ほどよく楽しんだ頃、パッと姿を現す梅ヶ島温泉郷。突然現れる湯の里は、まるで仙人の遊び場に招かれたような不思議な光景。今回訪ねる「さつき苑」、湯の花をたっぷり楽しめるとのことで楽しみだ。

営業…しています!?

辿りついた「さつき苑」。温泉街の裏にひっそりと建つ、失礼ながら廃墟。宿の名前を掲げた看板は地べたに転がり、入り口の引き戸はビクともしない。人の気配もしないとくれば、まさかの休業中か。

こちらの引き戸、宿主も認める立て付けの悪さ。力いっぱい引いたり、時には優しく撫でてみたり。悪戦苦闘の末、ガッタンゴットンと暴れて開く。

相変わらず人の気配は無い。道場破りのような大声で、天井に向かって挨拶すると、飛び出してくるお母さん。「おっ、お風呂を貸しテくだサイッ!」何故かこちらが不意を突かれ、声が裏返ってしまった。

湯の華が自慢の「さつき苑」、お風呂は貸切制というわけでは無いが、通常入れ替わりで一組ずつ入ることが多いようだ。「今、入ってるけど、それでも良ければ〜」との事なので遠慮する。こんなこともあろうかと、カラー粘土を持ってきている。


予想外に、ダイソーのカラー粘土は臭い。妙に石油の匂いが鼻につく。先日ほど盛り上がることもなくしまわれる粘土。再び日の目をみることは無いだろう。

店主の人柄と自分の気づき

建造物の作りは重厚。最盛期はさぞかし立派な宿だったのだろう。ところどころ散見されるポップな展示物たち(ディズニーやドラゴンボールのパズル、ガンダムのプラモデル)は、宿主の人柄を垣間見ることができ微笑ましい。きっと思い入れのあるものに違いない。

侘び寂び宿はこうあってほしい〜という一方的な理想は、いつの間にか自分が「お客様」になってしまっていたと気付かされる。そういえば、せっせと粘土をこねる間に、わざわざストーブを出してくださった。今思い返せば、サービスというより、お母さんの人を想う優しさに触れた瞬間だったように思う。

湯殿もツコッミどころ満載。でも桃源郷

ものすごく良く言えば味わい深く、率直に言えばかなりボロい。脱衣所の天井はポタポタと結露が落ち、湯殿への扉も開閉ままならない。ツッコミどころは盛りだくさん。それでも大きな窓から入る陽の光に照らされたブルーのタイルは美しく、源泉39℃のぬる目のお湯はたっぷり長湯でお肌ツルツルに。「熱め」と「ぬるめ」の二種類あるが「熱め」がそもそも熱くないので、普段長湯が苦手な人でもできそうだ。

大きな窓の外には桜の木。惜しくも開花前だったが、満開ならさぞかし幻想的な雰囲気になるのだろう。湯の華も相まって、夢見心地のままいつまでも。それはもう桃源郷。浸れば勝ち、哀愁漂う宿を楽しむコツである。

設備の古さを上回る不思議な魅力

たっぷり1時間以上入浴、荷物をまとめているとシュワワワ〜と天ぷらの上がる音といい香り。そういえばお昼を食べていなかった。すっごいボロいけど、今度は宿泊してみてもいいな…。そんな風に思ってしまう不思議な魅力がこの宿にはある。WEBの口コミも、設備への評価は低いが料理・接客・お風呂は非常に高い点数となっている。

「本当に、ありがとうございました。」ニコニコと人の良さそうな笑顔が素敵な息子さんが僕らを見送ってくれた。こちらから見えなくなるまでずうっと頭を下げていた。ただの日帰り温泉の客なのに、本当に心のこもった丁寧なお辞儀だった。建屋は荒んでいたけれど、心打たれる温かい接客に見送られ、大変後味の良い温泉となった。

人は選ぶし、きっとハマりはしない。それでも不思議な魅力に溢れる「梅ヶ島温泉 さつき苑」今度は紅葉の時期に訪れてみたい。


まとめ

【旅の時間】5:00〜23:00(全行程)

【行程】千葉県→新静岡IC→梅ヶ島温泉さつき苑湯元屋>→焼津さかなセンター→鶴巻温泉<弘法の里湯>→居酒屋

【金額】1,5000円前後(全行程)

「さつき苑」

住所・静岡県葵区梅ヶ島5255-9

TEL・054-269-2010

料金・日帰り温泉/500円(7:00〜19:00まで)

<向く人、向かない人>

清潔感や理想の雰囲気に拘る人には全くもって不向き。少々のハプニングや不思議な空間を楽しめる人、過剰かつマニュアル化されたおもてなしではなく、人間味のある温かな心に触れたい人には向いている。純粋に温泉に興味がある人も行ってみる価値はあり。

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